画面の外から、ランプの光をつなぐ

画面の中に、テーブルランプがひとつ置かれている。

その横に座った人物の顔には、ランプから伸びたような柔らかい光が当たっている。見ている側は、たぶん何も疑わない。この部屋は、あのランプに照らされているのだと思う。

でも、実際に人物を照らしているのが、そのランプとは限りません。

著者の紹介
  • テレビ局で働くプロ照明マン歴15年以上
  • スタジオでのバラエティや商品撮影、ロケ、ドラマなどの照明を担当
  • 所有カメラはSONY FX2、FX30、Fujifilm X100Vなど
  • 私物のライトや撮影機材もどんどん増えてる
ゆーふぃる

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目次

ランプだけでは、顔まで光が届かない

ドラマの照明では、画面に映り込む照明器具を「プラクティカルライト」と呼びます。テーブルランプやフロアライト、壁に付いたブラケット。そこに光源があることを、画面の中で説明してくれるライトです。

ただ、画面に映るランプだけで撮ろうとすると、なかなか都合よくはいきません。

ランプの近くばかりが明るくなったり、人物の顔にはほとんど光が届かなかったりする。顔が見えるところまでランプを明るくすれば、今度はシェードや電球の周りだけが白く飛んでしまうこともあります。

プラクティカルライトのみ。ランプは明るいが、ベッドに座る人物の顔は暗い

プラクティカルのみ。 ランプのシェードは明るく見えますが、人物の表情は読み取りづらい状態です。

ここからの作例は、ライティングシミュレーションソフト「set.a.light 3D」で作成しています。ソフトの機能や使用感は、リンク先の記事で詳しく紹介しています。実際の撮影現場の写真ではありません。

ランプの光を、画面の外で補う

そこで、画面の外から別のライトを足します。

ランプがある方向から、ランプに近い色で、ランプから広がったように見える光をつくる。カメラから見て人物がきれいに見える角度も探しながら、それでも光の出どころだけは嘘に見えないようにする。

キーライトのみ。ランプ側からの光で人物の表情が見える

まず、プラクティカルにキーライトだけを足した状態。 画面の外からランプがある方向の光を足すと、人物の表情と顔の立体感が見えてきます。

プラクティカルにキー、フィル、反射バックを加えた完成形

キーに加えて、フィルと反射バックも入れた完成形。 顔の影を少し起こし、背景や肩側には冷たい光を足しています。全部を明るくするのではなく、表情と部屋の雰囲気を見ながら整えます。

画面の中では小さなランプが光っている。その外側では、もっと大きなライトが人物を照らしている。二つは別の光なのに、映像の中では一つの光としてつながります。

少し変な話です。

現実のランプだけで撮るより、画面の外にライトを足した方が自然に見える。照明を増やしているのに、うまくいけば照明の存在は消えていく。

カメラの外では、こう仕込んでいる

人物とランプ、カメラ、画面外の補強ライトを示した3D配置図

カメラの外へ回ると、ランプとは別にライトが置かれているのが分かります。完成した画だけでは見えない、この距離と角度で人物に当たる光を作っています。

キー、フィル、天井バウンスのバックライト、フロアランプの位置を示した俯瞰配置図

俯瞰で見ると、人物、カメラ、ライトの位置関係が分かります。上側がキーライト、その下がフィルライト、右下が天井へバウンスさせるバックライト。ベッドの上側にある円形の器具が、画面に映っているフロアランプです。配置図はシミュレーション上のもので、実機の仕様や出力を検証したものではありません。

一灯ずつ分けると、役割が見える

完成形をつくっている光を一灯ずつ分けて見ると、それぞれの役割が分かります。キーライトは先ほど見たように、ランプの方向から人物の表情と顔の立体感をつくる光です。

フィルライトのみ。人物の正面側から影を柔らかく起こしている

フィルライトのみ。 キーライトでできる顔の影を起こし、暗部の表情を残すための光です。

反射バックライトのみ。天井へバウンスさせた冷たい光が人物と背景に当たっている

反射バックライトのみ。 天井へバウンスさせた冷たい光で、人物の肩や髪を背景から分けています。

僕がドラマのライティングを考えるときは、まずその場所にどんな光源があるのかを見ます。窓なのか、天井の照明なのか、机の上のランプなのか。その中から、どの光が人物を照らしていることにするのかを決める。

あとは、その光源と人物、カメラの位置をつなぐようにライトを置いていきます。

人物をきれいに見せるだけなら、ライトを置ける場所はもっと自由です。でも、その場所に存在しない方向から急にきれいな光が来ると、見る側は理由を説明できなくても、どこか作られた感じを受け取ります。

だから、画面の外ではいろいろ仕込んでいても、画面の中には一つの理由を残しておく。

あのランプが光っているから、この人の顔が見える。

もちろん実際には、それだけではありません。それでも、そう見えているなら照明としてはうまくいっている。ドラマの照明は、光を足す仕事であると同時に、足した光の存在を消していく仕事でもあるのだと思います。

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